10月1日、世界は静かに高齢者デーだった

衣替えのついでに、ちょっとだけ地球規模の話をしよう


正直に告白する。私はつい最近まで、10月1日は「衣替えの日」だとばかり思っていた。半袖をしまい、長袖を出す。ただそれだけの、実に地味な記念日だと。ところが調べてみたら、この日は国連が1990年に定めた「国際高齢者デー(International Day of Older Persons)」でもあるという。1991年から世界中で実施されている、れっきとした国際デーだ。しかも目的が結構本格的で、高齢者の権利や尊厳を守ること、そして高齢者虐待の撤廃への意識向上を掲げている。衣替えと同じ日に、国連がそんな真剣な話をしていたとは、まったく知らなかった。

ちなみにこの日は「国際音楽の日」でもあるらしい。つまり10月1日の地球は、長袖を着て、高齢者の尊厳について考えながら、どこかで誰かが音楽を奏でているという、なんともシュールな一日を過ごしていたことになる。カレンダーというのは、思っている以上に忙しい。

目次

「敬老の日」との違いを、勝手に格付けしてみる

日本には9月の「敬老の日」がある。こちらは3連休効果もあって知名度は抜群だが、性格としては「おじいちゃん、おばあちゃん、いつもありがとう」という感謝の日に近い。一方の国際高齢者デーは、感謝ムードよりも「高齢者が不当に扱われない社会を、ちゃんと仕組みとして作ろう」という制度点検の日という顔つきをしている。たとえるなら、敬老の日が家族からの手紙だとしたら、国際高齢者デーは社会からの点検報告書のようなものだ。手紙をもらって嬉しいのは当然として、点検報告書のほうも、実はけっこう大事にされるべきなのである。

衣替えというのも考えてみれば地味に合理的な行為で、季節が変わるタイミングで「そろそろこの服、傷んできたな」と点検するきっかけになる。同じように10月1日は、高齢者を取り巻く制度や支援のかたちを「そろそろこの仕組み、ほつれてきていないか」と点検する、ちょうどいい節目なのかもしれない。

日本、ついに「100歳が10万人」の時代に突入

制度の話はとかく眠くなりがちなので、ここでひとつ、単純に「へえ」となる数字の話をしよう。今年9月15日、厚生労働省が発表したところによると、全国の100歳以上の高齢者は10万7,677人。1963年の統計開始以来、初めて10万人の大台を突破し、56年連続で過去最多を更新したという。半世紀以上「過去最多」を言い続けているカレンダー、もはや年中行事の一部になっている感すらある。

  • その1:63年前は「たった153人」だった老人福祉法ができた1963年、100歳以上の人は全国でわずか153人。それが1981年に1千人、1998年に1万人を超え、今年ついに10万人。掛け算にすると700倍という、ちょっとした少子化とは真逆のダイナミックな伸び方をしている。ちなみに全体の87.6%が女性で、男性は約1割強。長寿レースは、どうも女性の方が圧倒的に強い。
  • その2:国内最高齢は114歳、しかも現役の折り紙作家もいる京都在住の岸本ふよさんが国内女性最高齢の114歳。花束を渡されている写真がニュースに載っていた。一方、今年100歳になった玉井十一さんは、生きがいを聞かれて「みんなを楽しませること」と答え、趣味の折り紙工芸で周囲を沸かせているという。100歳になってなお「人を楽しませたい」と言える胆力、正直かなり眩しい。

ちなみに2026年度中に100歳になる人は5万4,294人で、前年度よりさらに増える見込み。平均寿命も女性87.33歳、男性81.35歳と、いずれも高水準。つまり私たちの現場は今後、「折り紙が趣味の100歳」に出会う確率が、じわじわ上がっていくということでもある。

ある日のケアマネ、脳内はこうなっている

想像してみてほしい。ある秋の午後、あなたは利用者さん宅からの帰り道、コンビニで肉まんを買いながらこう考えている。「衣替えもしなきゃ、そういえば担当してる利用者さんも来年100歳だったな、折り紙でも教わってみようかな……」。頭の中は完全に文化祭前日の実行委員会状態だ。けれど、その慌ただしさの向こう側にあるのは、結局「目の前の人が、尊厳を保ったまま暮らし続けられるように」というシンプルな一点に尽きる。国際高齢者デーが騒がれようが騒がれまいが、現場の仕事の本質は、そこからびくとも動かない。

衣替えのように、10月は制度も気持ちも一度「整える」タイミングらしい。国際高齢者デーというマイナーだけど骨太な記念日をきっかけに、100歳を超えてなお「人を楽しませたい」と言える人がいる社会は、案外悪くないなと思う。長袖を出すついでに、そんなことをちょっとだけ考えてみる10月1日であってほしい。

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