高齢者の虐待について

少し前に、厚生労働省の方から令和2年度の高齢者虐待に関する調査結果が出ました。

この調査によると、養介護施設従事者によるものが 2,097 件であり、前年度より 170 件(7.5%)減少したのに対し、養護者によるものは 35,774 件であり、前年度より 1,717件(5.0%)増加しています。

弊社は居宅介護支援ですので、ここからは施設内の虐待ではなく、自宅での虐待についてもう少し詳しくみていきたいと思います。以下は、施設以外での虐待についてのデータです。

虐待が発生した要因として、虐待者の「性格や人格(に基づく言動)」(57.9%)、被虐待者の「認知症の症状」(52.9%)、虐待者の「介護疲れ・介護ストレス」(50.0%)、「被虐待者との虐待発生までの人間関係」(46.5%)、虐待者の「精神状態が安定していない」(46.1%)、虐待者の「理解力の不足や低下」(43.1%)、虐待者の「知識や情報の不足」(42.6%)等が挙げられています。

また、被虐待高齢者から見た虐待者の続柄は、「息子」が 39.9%と最も多く、次いで「夫」が 22.4%、「娘」が 17.8%の順でした。

性別では虐待を受けたのは、「女性」が 75.2%、「男性」が 24.7%であり、女性が 8 割近くを占めていました。また、年齢階級別では「80~84 歳」が 23.6%と最も多くなりました。

虐待の深刻度ですが、5 段階評価で「深刻度 1」(生命・身体・生活への影響や本人意思の無視等)が 33.6%と最も多く、次いで「深刻度 3」(生命・身体・生活に著しい影響)が 31.3%だった一方、最も重い「深刻度 5」(生命・身体・生活に関する重大な危険)は 7.4%でした。

上記をざっくりとまとめてみますと、、、、、

○施設での虐待は減っており、家庭での虐待が増えている、ということ。(発生件数であり、家庭よりも発生率が低いということではない)

○介護疲れ・ストレスや、元来の気質的な部分、病気に対する理解、知識、情報の欠如といった虐待者によるものと、認知症である、という被虐待者側の心身状況であることが発生要因の大きな部分であるということ。

○虐待をしている介護者の4割が息子であり、2割強が夫であること。娘も2割弱であること。

○生命、身体、生活に著しい影響を与える虐待が3割強であり、重大な危険にもなる深刻な虐待も7.4%あること。

といったところでしょうか。

施設での虐待が減っている、というのは、事業所の教育やチェックが機能していたり、モラルなどが向上しつつある、ということで、「プロに任せる安心感」は増します。

もちろん、施設の入所利用者数と、自宅で介護を受けている全高齢者数の違いがあるので、「発生率」でくらべてみないと一概に自宅より施設の方が虐待に関しては起こりにくい!などといえませんが、、、、

あくまでも、昨年と比べると発生件数が減っているよね、、、ということ、一昨年と比べても減っていることを考えると、こういった減少傾向が来年以降も続くようなら、このトレンドはある程度信頼性があるのかな、と。

続いて、介護疲れやストレスに関することですが、これはちょっと想像するとわかるのですが、介護をしている人に介護疲れやストレスがたまることで、虐待につながってしまう、、、。

なので、介護者のレスパイトが大切である、とよく言われているのはまさにその通りで、、、

現役のケアマネジャーとしても、やはりご家族様には過剰な無理をして頂きたくないですね。

また、介護者の性格的なものが原因である、という部分についてですが、、、、

ここはなかなか、変更するのが難しいところかと思います。

病気に対する知識、理解が大切である、というのもうなづけるところです。

そして、虐待者のうち4割が息子、2割が夫、2割が娘、、ということで、すごく近いご家族、それも男性が多いのですが、、、、

生活面での支援をすることには慣れていない男性のストレス増加によるものか、、、、、それとも、そもそも男性の方が、支配性と相関関係があるテストステロン値が高いという性差によるものか、、、、

上記をさらにまとめてみますと、、、、

「攻撃的・支配的な性格」をもち、「介護疲れ・ストレスを感じ」ている「息子」または「夫」が「病気への知識・理解が欠乏している」状態で「認知症」の「女性」を介護する、というケースでは、虐待がうまれやすくなる可能性がある、と想像できます。

ここで、私たち支援をする側の人間から言いますと、介護者の「性格」はちょっと変わらない「定数」です。スティーブジョブズのような、胸に刺さる言葉でプレゼンができるなら、もしかしたらこの性格すらも「変数」になるのかもしれませんが、、、、、

普通は、クライアントのご家族の性格を「変数」としてアプローチしていくことは得策ではないと思います。

また、介護を受ける対象者については「定数」であり、これは決して変えることができません。

変えられない「定数」の部分をどうやって変えようか、ということよりも、、、、

変えられる「変数」をどうやって変えていくか?、、、ということに注力していくことが大切だと考えています。

さて、そう考えますと、私たちが変えうることのできる「変数」は、たとえば「介護疲れ・ストレス」という部分で、、、、

これらはサービスが入ることで軽減させられそうです。

「息子」または「夫」という部分は、基本的には定数であることが多いイメージですが、、、、一概にそうとも言い切れず、ケースバイケースであり、変数でもあり、定数でもあるでしょう。

その人以外、介護をする人がいない、という定数の状況が想定できる一方、昼、夜など介護者の時間帯を変えることができるご家庭、別の家族が見られるご家庭、、、など、変数となる状況もあるかもしれませんね。

他にも、ご家族へ病気の説明などを行い「病気への知識・理解を深めてもらう」という所も、アプローチの仕方で「変数」として扱うことができそうです。

「認知症」という病状は、一見「定数」ですが、、、

たとえば水頭症のように治療できる認知症や、慢性的な脱水状態であったり、甲状腺機能低下など、認知症のように見えても実は認知症ではなく、治療により改善することができる「変数」である場合と、、、、、

不可逆的なものであり、治療法がない「定数」である場合がありますので、しっかりと医師による診断・治療などを受ける必要があります。

いかに「変数」の部分を変えることができるのか?ということを考えるお手伝いをするのがケアマネジャーであり、、、

介護の専門職なわけですが、、、、

たとえば、上記のどの変数についても、色々提案をしてみたけれど、動かせそうもない、、、あるいは、変数がすこししか変わらず、効果は薄い、、、ということであれば、、、、、

虐待の内容のうち、(生命・身体・生活に著しい影響)が 31.3%、(生命・身体・生活に関する重大な危険)は 7.4%という数字を重く見て、「施設入所」や現在の介護者と離れることを提案するのも一つではないか、と考えます。

高齢者の虐待は、通報そのものも増えています。

数字の上では増加していますが、これはそのまま、単純に、虐待をする人が増加しているというわけではないと思いますし、日本人の気質・人間性を、まだ私は信じています。

虐待に対する社会的な関心が高まって、以前は虐待ととらえられていなかったものが虐待と認識されていることも理由の一つでしょう。

以前が虐待に対して無関心すぎた、といえるかもしれません。

上でも述べましたが、「変数」を変えることで、虐待そのものを減らせる可能性もあります。

現在、介護で疲れている方々には、「介護は家族がするものだ」といった昔からの価値観にとらわれすぎたり、ガマンしすぎたりせず、、、、、

プロの力を借りたり、、、、

身近なケアマネジャーや行政などに相談をして頂きたいと思います。

皆様の介護ライフが少しでも楽しいものになりますように、、、。

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